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2024.03.25

【2024年4月】 労働条件明示の改正とは。中小企業の労務・採用担当者が対応すべきことを解説

2024年4月1日から「労働基準法施工規則」「有期労働契約の締結、更新及び雇い止めに関する基準」が改正され、労働条件の明示項目が追加されます。労働条件の明示は労働基準法で義務付けられており、違反すると罰則が科される可能性があるため、正確に把握しておくことが重要です。

この記事では、企業の労務・採用担当者向けに、労働条件明示の改正の概要、対応すべき事項を解説します。


労働条件の明示とは

企業(使用者)は、労働者に対して労働条件の明示が法律で義務づけられています(労働基準法15条第1項)。雇入れの際は『労働条件通知書』の交付が必要です。

労働条件の明示は、雇用契約締結後の労使トラブルの防止・労働者の保護を目的としており、明示された労働条件と事実が異なる場合、労働者は労働契約の解除を求められます。

法律上で必ず明示すべき項目、企業が定める場合のみ明示すべき項目は以下のとおりです。

書面の交付が必要な明示事項 口頭での明示が認められている事項
労働契約の期間
就業場所・従事する業務内容
始業・就業の時刻
所定労働時間を超過した労働の有無
休憩時間
休日・休暇
交代制勤務の際の就業時転換に関する事項
賃金の決定や計算・支払いの方法
賃金の〆切・支払時期に関する事項
解雇の理由を含む退職に関する事項
昇給に関する事項
退職手当の適用範囲に関する事項
退職手当の支払い方法・時期に関する事項
臨時で支払われる賃金・賞与に関する事項
労働者負担に関する事項
衛生・安全に関する事項
職業訓練に関する事項
災害補償・業務外傷病扶助に関する事項
制裁・表彰に関する事項
給食に関する事項

参考:厚生労働省「採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。」


また、パートタイマーやアルバイトなどの短時間労働者を雇い入れる際には、「特定事項」として以下の項目の明示が必要です(パートタイム・有期雇用労働法第6条による)。

・昇給の有無
・退職手当の有無
・賞与の有無
・短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口に関する事項


改正の背景・目的

今回の改正には、2つの目的があります。

1つは、無期転換ルールの認知度が低いことです。
無期転換ルールとは、同一の使用者との間で、有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、契約社員やアルバイトからの申し込みにより、期間の定めのない労働契約に転換されるルールです。

通算5年を超える時期(無期転換申込権が発生する更新時)に、労働者が無期転換ルールを理解したうえで判断できるよう、無期転換申込機会・無期転換後の労働条件について、使用者からの明示が義務付けられることとなりました。


厚生労働省「無期転換ルールについて」から引用


2つ目は、務地限定や職務限定の正社員など、幅広い正社員雇用に対応するため、「多様な正社員の雇用ルール」を明確化することです。

改正前までは、雇入れ時の就業場所・従事すべき業務を明示すれば問題ないとされており、就業場所や業務内容の変更範囲までは求められていませんでした。

働き方の多様化に伴い、労働条件の明示の対象に就業場所や業務の変更の範囲を追加することとなりました。


労働条件明示のルール 4つの追加項目

労働条件明示の改正で、追加される項目は以下の通りです。1.は全ての労働者に対する明示事項、2.~4.は有期契約労働者に対する明示事項です。

1.就業場所・業務の変更の範囲
2.更新上限の有無と内容
3.無期転換の申し込み機会
4.無期転換後の労働条件

厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わりますから引用

就業場所・業務内容の変更範囲

改正前は雇入れ時の就業場所・業務内容の明示のみが義務づけられていました。今回の改正で、将来の配置転換などで想定される就業場所・業務内容も明示が必要となります。

明示が義務付けられるのは2024年4月以降に締結するすべての労働契約であり、明示のタイミングは労働契約の締結・有期雇用契約の更新時です。

変更の範囲の明示は、就業場所・業務がどの程度限定されるかによって記載が異なります。

厚生労働省のパンフレット「2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?」に労働条件通知書の記載例が掲載されていますので、自社の状況に近い例を参考にしてください。

更新上限の有無と内容

労働条件明示の改正後は、有期契約労働者に対する「更新上限の明示」が必要です。更新上限とは、有期契約の通算契約期間、もしくは更新回数上限のことを指します。

使用者は、有期労働契約の締結と更新時に、更新上限の有無と内容を明示します。
また、以下の場合はあらかじめ有期労働者に説明が必要とされます。

・更新上限を新しく設けようとする場合
・更新上限を短縮しようとする場合

参考:厚生労働省「2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?」

無期転換申し込み機会および無期転換後の労働条件

労働条件明示の改正後は、有期契約労働者に対して「無期転換への申し込みが可能であること」の明示が必要です。無期転換ルールに則り、①無期転換申込権が生じる契約更新 ②向き転換申込権の行使による向き労働契約の成立時 それぞれで明示します。

有期契約労働者が使用者(企業)に対して無期転換申込をした場合、無期労働契約が成立し、使用者は断ることができません。

契約期間が1年なら5回目更新後の1年間、契約期間が3年なら1回目更新後の3年間に申し込みが可能です。申し込みがあれば無期労働契約が成立します。

厚生労働省「2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?」から引用

賃金などの労働条件は同様の条件のまま、無期労働契約へ転換することも可能ですが、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇差を禁止する「同一労働同一賃金」を考慮して労働条件を決めましょう。

参考:厚生労働省|同一労働同一賃金ガイドライン

要注意:募集時の明示項目も追加されます

今回の改正に伴い、求人募集においても明示事項が追加されます。

・従事すべき業務の変更の範囲
・就業場所の変更の範囲
・有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限を含む)



厚生労働省リーフレット「求人企業の皆様へ」から引用

これにより、求人募集時に明示する事項が増えるため、求人広告のスペースが不足することが考えられます。対処方法として、「詳細は面談時にお伝えします」と記載し、労働条件の一部を別のタイミングで明示することも可能です。

この場合、原則、面接などで求職者と最初に接触する時点までに、すべての労働条件を明示する必要があります。


企業が行うべき対策

労働条件明示の改正に伴い、企業が行うべき対策は以下のとおりです。

1.労働条件の明示状況の確認・書面の修正
2.有期契約労働者の更新上限の再確認
3.無期転換ルールが適用される有期契約労働者の把握

労働条件の明示状況を確認・書面の修正

以下の書面について、現状の労働条件明示状況を把握しましょう。追加・変更が必要となる項目を洗い出し、修正作業を行います。

・募集・求人
・労働条件通知書
・就業規則
・労働条件に関する各種書類

なお、厚生労働省からは、2024年4月から適用される労働条件明示ルールを反映した「モデル労働労働条件通知書」が公開されています。

有期労働契約者の更新上限の再確認

更新上限の明示に対応するために、有期契約労働者の契約更新回数・通算期間などの確認をおこないます。

契約更新の際に、更新上限の有無と詳しい内容を明示できるように準備しておきましょう。更新上限の新設・短縮をおこなう場合は、あらかじめ説明が必要です。

無期転換ルールが適用される有期契約労働者の把握

無期転換ルールが適用される有期契約労働者をリストアップし、それぞれの無期転換申し込み権が発生するタイミングを明確にしましょう。

また、無期転換後の労働条件の検討・明示するための書面も準備をしておきましょう。


まとめ

労働条件の明示は労働基準法で定められています。労働条件の明示義務に違反した場合、労働基準法第120条第1号により、30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

企業の労務・採用担当者は、2024年の労働条件明示の改正を理解し、対応すべき事項に漏れなく着手しましょう。

弊社には社会保険労務士も在籍しています。今回の改正に伴う書面変更・対応方法について疑問や不安があれば、税理士法人AOIみらい(東京都新宿区)にお気軽にご相談ください。

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