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2025.03.07

【2025年4月から順次施行】雇用保険法 改正内容、中小企業への影響・取るべき対応策を解説

2025年4月から順次、雇用保険法の改正が施行されます。この改正は、急速に変化する労働市場と社会ニーズに対応するため、雇用のセーフティネットを強化し、労働者の能力開発を促進することを目的としています。特に中小企業にとっては、人材確保や育成、労務管理に関して重要な影響を及ぼす可能性があります。

この記事では、改正の主要ポイントと中小企業への影響・中小企業経営者が取るべき対応について解説します。


雇用保険制度とは

雇用保険制度は、労働者が失業した場合に生活の安定と再就職の促進を図るための制度です。具体的には、失業給付の支給、再就職支援、能力開発支援などを行っています。この制度は、労働者、事業主、国の三者が負担する保険料によって運営されており、日本の社会保障制度の重要な柱の一つとなっています。


雇用保険制度 主な改正内容

雇用保険の適用拡大

適用範囲が、週所定労働時間「20時間以上」から「10時間以上」に変更されます。適用拡大の施行日は2028年10月1日となります。

これに伴い、「被保険者期間の算定基準」や「失業認定基準」など、週所定労働時間20時間を基準に設定されている基準を現行の2分の1に改正します。給付については、現行の被保険者と同様に、基本手当・教育訓練給付・育児休業給付等を給付されます。

厚生労働省「雇用保険等の一部を改正する法律」から引用


雇用保険適用拡大については、別の記事で詳しく紹介していますので、併せてご覧ください。

教育訓練やリスキリング支援の充実

①自己都合離職者の給付制限期間の短縮
現行では給付制限期間があり、自己都合で離職した場合、待機期間満了の翌日から原則2ヶ月間(5年以内に2回を超える場合は3ヶ月)は失業給付(基本手当)を受給できません。

改正後は、自己都合による退職者が、離職期間中や離職日前1年以内に、雇用の安定及・就職の促進に必要な職業に関する教育訓練を自ら行った場合は、給付制限が解除されます。施行日は2025年4月1日です。 

厚生労働省「雇用保険等の一部を改正する法律」から引用


②教育訓練給付金率の引き上げ

2024年10月から、教育訓練給付金の給付率の上限が引き上げられました。教育訓練給付制度は、厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講・修了した際に、受講費用の一部の支給される制度です。

教育訓練給付金は「専門実践教育訓練給付金」と「特定一般教育訓練給付金」があり、それぞれ以下の内容に改正されています。


「専門実践教育訓練給付金」と「特定一般教育訓練給付金」の例は以下のとおりです。

専門実践教育訓練給付金
・医療・社会福祉・保健衛生関係の専門資格(看護師、介護福祉士等)
・デジタル関連技術の習得講座(データサイエンティスト養成コース等)
・専門職大学院 等

特定一般教育訓練給付金
・運転免許関係(大型自動車第一種免許等)
・医療・社会福祉・保健衛生関係の講座(介護職員初任者研修等) 

厚生労働省「雇用保険等の一部を改正する法律」から引用


③教育訓練休暇給付金の創設

労働者が自ら教育訓練のために休暇を取った際、その期間中の生活費の負担を軽減するため、基本手当に相当する給付として、賃金の一定割合を支給する教育訓練休暇給付金が新たに設けられます。施行日な2025年10月1日です。

厚生労働省「雇用保険等の一部を改正する法律」から引用

育児休業給付を支える財政基盤の強化

育児休業支給額の増加に伴い、財政基盤の強化が求められています。(現在の国庫負担割合:本則1/8のところ暫定措置として1/80、現在の保険料率:0.4%)

政府は男性の育児休暇取得率向上を目指しており、対応する財政基盤を確保するため、以下の見直しを行います。

① 令和6年度から、国庫負担割合を現行の1/80から本則の1/8に引き上げる
② 当面の保険料率は現行の0.4%に据え置き、本則料率を令和7年度から0.5%に引き上げ
※実際の料率は保険財政の状況に応じて弾力的に調整する(0.4%を維持する)仕組みを導入

施行日は、国庫の負担割合に係る部分は2024年5月17日(公布日)、保険料率に係る部分は2025年4月1日です。

その他

①2024年度末までの暫定措置 2年間延長
以下の暫定措置がそれぞれ見直され、2年間(2027年3月31日まで)の延長が決まりました。

・雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例
・基本手当の地域延長給付
・教育訓練支援給付金
・介護休業給付の国庫負担割合を1/80(本則1/8)とする暫定措置

②就業手当の廃止
就業手当を廃止するとともに、就業促進定着手当の上限を支給残日数の20%に引き下げられます。

就業手当とは、受給資格者が職業に就いた場合で、所定給付日数の3分の1以上かつ45日以上を残して就業をした場合に、就業日ごとに基本手当日額の30%相当額を支給する制度です。支給実績が極めて少なく、安定した職業への就職促進が求められていることを踏まえ、就業手当は廃止されることになりました。


子ども・子育て支援法の雇用保険制度 改正内容

2024年6月5日、政府のこども未来戦略を着実に進める目的で「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」が成立し、雇用保険制度に関する改正も行われています。

出生後休業支援給付の創設

育児休業を取得した場合、休業開始から通算180日までは賃金の67%、180日経過後は50%が支給されますが、通常勤務時と比較して手取りが少なくなります。

そこで、夫婦ともに育休を取得した際に支給される「出生後休業支援給付」が創設されました。

子の出生直後の一定期間以内(男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内)に、被保険者とその配偶者の両方が「14日以上」の育児休業を取得する場合には、最大28日間、休業開始前賃金の13%相当額が「出生後休業支援給付金」として支給されます。

これにより、現行の育児休業給付(67%)と併せて、給付率は80%へ引き上げられます。なお、配偶者が専業主婦(夫)の世帯やひとり親家庭では、配偶者の育休取得の要件は適用されません。

厚生労働省「子ども・子育て支援等の一部を改正する法律の概要」から引用

育児時短就業給付の創設

共働き・共育ての推進や、育児とキャリア形成の両立支援を目的に、「育児時短就業給付」が創設されました。

現状では、育児のために短時間勤務制度を選択し、賃金が下がったときに給付する制度はありません。創設後は、2歳未満の子どもを養育するために時短勤務する際、時短勤務中に支払われた賃金額の10%が支給されます。施行日は2025年4月1日です。

厚生労働省「子ども・子育て支援等の一部を改正する法律の概要」から引用


中小企業への影響と対応策

中小企業への主な影響

雇用保険料負担の増加
2028年10月から週10時間以上の労働者も雇用保険の対象となるため、これまで雇用保険に加入していなかった短時間労働者も対象となり、企業の保険料負担は必然的に増加します。特に、パートタイムやアルバイトを多く雇用している中小企業にとっては、大きな負担となる可能性があります。

人材育成・定着への影響
自己都合離職者の給付制限期間短縮により、転職や離職の動きが活発になる可能性があります。中小企業にとっては、人材確保の機会が増える一方で、従業員の離職リスクも高まる可能性があります。

また、教育訓練給付の拡充により、従業員のスキルアップが促進されます。これは中小企業の競争力向上につながる一方で、育成した人材の流出リスクも高まる可能性があります。

中小企業が取るべき対応策

中小企業経営者・労務担当者は、2025年4月の雇用保険法改正に向けて、以下の対応策を検討し実施することが重要です。これらの対応は、法改正への適切な対処だけでなく、企業の競争力強化と持続的成長にもつながります。

就業規則の見直し
・雇用保険の適用拡大に対応した規定の追加
・教育訓練休暇制度の導入
・育児支援制度の拡充
・短時間勤務制度の整備

就業規則の見直しは、法改正への対応だけでなく、従業員の権利と義務を明確にし、労使間のトラブルを防ぐ重要な役割を果たします。特に、教育訓練休暇制度や育児支援制度の導入は、従業員の能力開発や仕事と家庭の両立支援につながり、企業の魅力向上にも寄与します。

人材育成・定着策の強化
・教育訓練制度の整備と活用促進
・キャリアパス制度の導入
・従業員満足度向上のための施策実施

人材育成は中小企業の競争力の源泉です。教育訓練給付金の拡充を活用し、従業員のスキルアップを支援することで、企業全体の生産性向上につながります。また、キャリアパス制度の導入により、従業員の将来展望を明確にし、モチベーション向上と定着率の改善が期待できます。


柔軟な働き方の推進
・テレワーク制度の導入・拡充
・フレックスタイム制度の導入
・ジョブシェアリングの検討

育児支援制度の拡充に合わせて、多様な働き方を支援することが重要です。柔軟な働き方の推進は、従業員の仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を実現し、優秀な人材の確保・定着につながります。


労務管理体制の整備
・人事部門の強化または新設
・労務管理システムの導入・更新
・社会保険労務士との連携強化

雇用保険制度の複雑化に伴い、適切な労務管理がより重要になります。人事部門の強化や専門家との連携により、法令遵守と効率的な人事管理を実現します。また、労務管理システムの導入は、事務作業の効率化と人的ミスの低減に役立ちます。


従業員への周知と理解促進
・改正内容に関する説明会の開催
・社内報や掲示板を活用した情報提供
・個別相談窓口の設置

法改正の内容を従業員に正確に伝え、理解を促進することは、円滑な制度移行のために不可欠です。定期的な情報提供や相談窓口の設置により、従業員の不安を解消し、新制度への適応を支援します。


経営戦略の見直し
・業務効率化や自動化の推進
・アウトソーシングの活用検討
・新規事業開発や事業再構築の検討

人材確保が困難になる可能性を見据え、人材に過度に依存しない経営戦略の構築が重要です。業務の効率化や自動化を進めるとともに、自社人材は核となる業務・スキルに集中し、その他の業務はアウトソーシングを活用するなど、柔軟な経営体制の構築を検討します。

これらの対応策を総合的に実施することで、中小企業は雇用保険法改正に適切に対応するだけでなく、企業としての魅力を高め、持続的な成長を実現することができます。経営者は、この法改正を企業変革の好機と捉え、積極的に取り組むことが求められます。

まとめ

2025年4月に施行される雇用保険法の改正は、急速に変化する労働市場と社会ニーズに対応するため、雇用のセーフティネットを強化し、労働者の能力開発を促進することを目的としています。

中小企業にとって課題となる面もありますが、同時に大きな機会でもあります。人材育成や働き方改革を経営戦略の中核に位置づけ、従業員と企業がともに成長できる環境づくりに取り組むことが、これからの中小企業経営には不可欠です。

適切な対応は、企業の競争力向上と持続的な成長につながり、魅力ある職場づくりと人材確保・定着にも寄与します。この機会を活かし、より強固で柔軟な経営基盤づくりに取り組んではいかがでしょうか。

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