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2025.02.05
【iDeCo】受取時の退職所得控除、5年ルールが10年に変更。2025年(令和7年)税制改正内容と影響、対応策

老後資金形成のひとつである「iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)」が、2025年度(令和7年度)の税制改正で大きく変わります。掛金上限額の引き上げによる節税効果の拡大や、受取時の「5年ルール」から「10年ルール」への変更など、重要な改正点があります。
この記事では、iDeCoの基本的な特徴や受取方法、節税効果の具体例を紹介しながら、税制改正の内容とその影響を解説します。iDeCoを利用中の方、これからの利用を検討している方はぜひご一読ください。(2025.9.17 更新)
iDeCoとは
iDeCoの概要と特徴
iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)は、老後の資金を自ら準備するための私的年金制度です。基本的に20歳以上65歳未満の公的年金加入者が利用でき、毎月の掛金を自身で選んだ金融商品で運用します。
iDeCoの主な特徴は以下のとおりです。
税制優遇
・掛金は全額所得控除の対象となり、所得税・住民税が軽減される
・運用益が非課税
・60歳以降の受取時にも税制優遇あり
加入、掛金
・掛金の最低額は月額5,000円で、1,000円単位で自由に設定できる
・加入区分(国民年金の被保険者種別やお勤め先の企業年金の違い)※1 によって掛金の限度額が異なる
・運用商品は、定期預金や投資信託など、リスクの異なる商品から選択可能
※1 iDeCo公式サイト iDeCo(イデコ)の加入資格・掛金・受取方法等
注意点
・原則、60歳まで受給・引き出しができない
・所得控除は本人の所得からのみ控除される
・加入時・拠出期間(運用期間)・受給時に手数料がかかる
iDeCoの受け取り方法
iDeCoの受け取り方法には、主に3つの選択肢があります。
・一時金として一括で受け取る
・年金として分割で受け取る
・一時金と年金を組み合わせて受け取る
一時金として受け取る場合
退職所得として扱われ、退職所得控除が適用されます。さらに退職所得には2分の1課税という優遇措置があり、(退職金 - 退職所得控除額)× 1/2 が課税対象となります。
例:勤続30年で退職金2,000万円を受け取る場合
・退職所得控除額は1,500万円(計算式:800万円 + 70万円 × (30年 - 20年))
・課税対象額は(2,000万円 - 1,500万円)× 1/2 = 250万円
また、退職所得は分離課税として扱われるため、他の所得とは別に税額が計算されます。これにより、一時金での受け取りは税負担が軽減される傾向にあります。
年金として受け取る場合
雑所得として扱われ、公的年金等控除が適用されます。5年から20年の間で受取期間を選択でき、受取開始時期も75歳までの間で自由に決められます。
受け取りに関する注意点
受取開始年齢は原則60歳からですが、加入期間が10年未満の場合は段階的に引き上げられます。また、75歳までに受取手続きをしないと自動的に一時金として受け取ることになるので注意が必要です。
節税効果の例
iDeCoを活用すると、様々な場面で税制優遇(節税効果)があります。以下に具体的な例を紹介します。iご自身の税控除額を知りたい場合は、iDeCo公式サイトに「かんたん税制優遇シミュレーション」で計算することができます。
積立時
・例:35歳の会社員、年収500万円
・毎月のiDeCo拠出額: 23,000円
・年間拠出額: 276,000円(全額所得控除の対象)
・年間の税金軽減額: 約55,200円
・30年間継続した場合の総節税額: 約165万円
運用時
・例:40歳の自営業者、年収1,000万円
・毎月のiDeCo拠出額: 68,000円
・年間拠出額: 816,000円
・年間の税金軽減額: 約321,280円
・運用益に対する20.315%の税金も非課税
受取時
・例:60歳の会社員
・iDeCo加入期間: 30年間
・形成した総資産: 1,000万円
・受取方法: 一時金
・適用される控除: 退職所得控除(1,500万円まで非課税)
・1,000万円全額を非課税で受け取り可能
2025年(令和7年)税制改正の内容と影響
2025年(令和7年)の税制改正大綱が、2024年12月27日に閣議決定され、iDeCoについての2点改正内容が発表されました。
①月額掛金の上限引き上げ
月額掛金の上限の引き上げが発表されました。これにより、拠出期間(運用期間)の減税効果が高まります。引き上げ内容は以下のとおりです。
・第1号被保険者(個人事業主・フリーランスなど) 月額6.8万円→ 7.5万円
・企業年金に加入している会社員 企業年金※2と合算で月額5.5万円→企業年金と合算で6.2万円。iDeCoの上限額は撤廃
・企業年金に加入していない会社員 月額2.3万円→6.2万円
※2 企業年金は、確定給付企業年金(企業型DB)・企業型確定拠出年金(企業型DC)を指します
②受取時の退職所得控除「5年ルール」が「10年ルール」へ変更
iDeCoの受け取り時に適用される「5年ルール」が「10年ルール」に変更されることが発表されました。この改正は2026年1月1日以降に支払われる退職一時金から適用されます。
重要な点として、このルールは主に「iDeCoの一時金を先に受け取り、その後に会社の退職金を受け取る」場合に適用されるものです。
「5年ルール」では、iDeCoの一時金を受け取った後、5年以上経過してから会社の退職金を受け取れば、それぞれに対して退職所得控除を適用できました。
今回の改正で「10年ルール」に変更されると、この間隔が10年以上必要になります。例えば、60歳でiDeCoの一時金を受け取り、65歳で退職金を受け取る予定の人は、間隔が10年未満のため、退職金の控除額が調整(減額)される可能性があり、税負担が増えることになります。
逆に、会社の退職金を先に受け取る場合は、全く別の税制ルール(後述する「19年ルール(重複期間の調整)」)が適用されるため、注意が必要です。
受け取り時期・方法の対応策
iDeCoと会社の退職金を受け取る際は、その受け取る順番によって、考えるべき対策が大きく異なります。ご自身の状況に合わせて最適な方法を検討しましょう。
【ケース1】iDeCoを先に、会社の退職金を後に受け取る場合
このケースでは、今回の税制改正で変更となる「10年ルール」を前提とした対策が有効です。
60歳でiDeCoの一時金を受け取り、10年以上経過した70歳以降に会社の退職金(または企業型DC)を受け取る、といったプランです。こうすることで、iDeCoと会社の退職金、それぞれで退職所得控除を最大限活用できる可能性が高まります。
ただし、この方法は70歳以降まで働く、あるいは会社の退職金の受け取りを繰り下げられるなど、特定のライフプランが前提となる点に注意が必要です。
【ケース2】会社の退職金を先に、iDeCoを後に受け取る場合
このケースでは、「10年ルール」ではなく、全く別の税制ルール、通称「19年ルール(重複期間の調整)」が適用されるため、全く異なる注意が必要です。
注意点:単純に期間を空けても、控除額は満額にならない
会社の退職金を受け取ってから19年以内にiDeCoの一時金を受け取る場合、会社の勤続期間とiDeCoの加入期間が重なっていると、その重複している期間分、後から受け取るiDeCoの退職所得控除額が減額されてしまいます。
したがって、「退職金を受け取ってから10年空けてiDeCoを受け取る」という対策は、この重複期間の調整があるため有効ではありません。
19年ルール(重複期間の調整)の仕組みと具体例
このルールは、異なる時期に退職金を受け取る際に、退職所得控除を過度に利用できないようにするための税制上の仕組みです。後から受け取るiDeCoの退職所得控除額を計算する際に、その基礎となる「iDeCoの加入期間」から、「会社での勤続期間と重複している期間」を差し引きます。
この「調整後の勤続年数」を使ってiDeCoの退職所得控除額を計算するため、控除額が本来よりも大幅に少なくなります。
具体例
・会社員時代:勤続38年間(22歳~60歳)。60歳で退職金2,000万円を受け取り済み
・iDeCo:加入25年間(40歳~65歳)。65歳で一時金800万円を受け取る予定
【Step 1】重複期間の計算
・iDeCo加入期間:40歳~65歳
・会社の勤続期間:22歳~60歳
・重複期間:40歳~60歳の20年間
【Step 2】iDeCoの退職所得控除額を計算する
・調整前のiDeCo加入期間:25年
・調整後の勤続年数:25年 - 重複期間20年 = 5年
この「5年」を基に退職所得控除額を計算すると、40万円 × 5年 = 200万円となり、iDeCoの退職所得控除額は200万円に減額されます。(もし調整がなければ、加入期間25年で計算され、控除額は1,150万円)
有効な対策:iDeCoを「年金形式」で受け取ることを検討する
この問題を回避するための有効な対策の一つが、iDeCoを一時金ではなく「年金」として分割で受け取る方法です。
受け取り方法を「年金」にすると、所得の種類が「退職所得」から「雑所得」に変わります。これにより、会社の退職金とは合算されず、退職所得控除の重複問題を根本的に回避できます。受け取った年金には「公的年金等控除」が適用されます。
まとめ
iDeCoは老後資金形成において有効な手段ですが、税制改正の影響を理解して活用することが重要です。特に、退職一時金の受け取り方や順番によって税負担が大きく変わる可能性があります。
老後の資産形成を効果的に行うためにも、制度変更による自身への影響を把握し、適切な対策を講じましょう。