お電話でのお問合せはこちら
TEL:03-3369-8803

ブログ

2025.07.28

【2026年10月から】社会保険の「106万円 年収の壁」が撤廃。コスト増を見据えて企業が取るべき対応策を解説

2025年(令和7)6月13日、「年金制度改革関連法」が成立し、6月20日に公布されました。これにより、パートタイマー・アルバイト従業員の社会保険加入における、いわゆる「106万円 年収の壁」が撤廃されることになります。

この改正は、従業員の働き方だけでなく、企業の社会保険料負担や労務管理に直接的な影響を及ぼします。

今回の記事では、中小企業経営者・労務担当者向けに、社会保険 年収の壁見直しの概要・企業が受ける影響・活用できる軽減措置や助成金・企業が取るべき具体的な対応について、分かりやすく解説いたします。

※2025年8月15日更新


社会保険の「106万円 年収の壁」とは

これまで、パートタイマー・アルバイトが社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する基準の一つとして「106万円の壁」が存在しました。

2025年7月時点では、以下の要件を全て満たす場合に社会保険の加入義務が発生します。

・従業員51人以上の企業に勤務(かつては501年以上、段階的に改正)
・週の所定労働時間が20時間以上
・月額賃金が88,000円以上(年収換算で約106万円)
・雇用期間が2ヶ月を超える見込み
・学生ではない

「被扶養者」として配偶者の社会保険に入り、保険料を支払うことなく健康保険の給付を受けたり、国民年金の第3号被保険者として保険料を免除されながら、老齢基礎年金の受給資格を得る方が多数いる状況です。

そのため、社会保険料の負担を避けるために、年収が106万円を超えないよう勤務時間を調整する「働き控え」が課題となっていました。


2026年10月以降、社会保険加入対象の拡大

今回の法改正により、週の所定労働時間が20時間以上の従業員(学生を除く)は、原則として全員が社会保険の加入対象となります。賃金要件の撤廃、企業規模の段階的撤廃が行われます。

なお、「週20時間以上」という労働時間の要件は変更がないため、週20時間未満の労働者については、現状のまま加入義務は発生しません。

改正の概要

・2026年10月:賃金要件(月額8.8万円以上)の撤廃
・2027年10月以降:企業規模要件の段階的な撤廃

厚生労働省公式サイト「年金制度改正法が成立しました」から引用

・2029年10月:個人事業所 常時5人以上のものを使用する全業種の事業所適用対象
(※現在は法定17業種が対象)


厚生労働省公式サイト「年金制度改正法が成立しました」
から引用

2025年 年金制度改正の全体像

今回の改正では、社会保険の加入対象拡大以外にも変更点があります(在職老齢年金の見直し、厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げ など)。

詳細は厚生労働省公式サイト「年金制度改正法が成立しました」をご覧ください。

企業への影響と対策

保険料負担の増加シミュレーション

社会保険の対象となる従業員が増えることで、企業が負担する社会保険料も増加します。

社会保険料は企業と従業員で折半して負担します。東京都の協会けんぽ(40歳未満)の場合、保険料率は合計で約28%(健康保険料約10%+厚生年金保険料18.3%)です。

コスト増を具体的に把握することが、企業にとっては最初のステップとなるでしょう。具体的な数値に落とし込むことで漠然とした不安が解消され、対策を立てられるようになります。

従業員1人あたりの月額社会保険料 事業主負担額シミュレーション
(東京都、40歳以上65歳未満、協会けんぽの場合、令和6年度保険料率を参考)

従業員の月収(所定内賃金)

企業負担の保険料(月額)

企業負担の保険料(年額)

90,000円 約 12,500円 約 150,000円
100,000円 約 14,000円 約 168,000円
120,000円 約 17,000円 約 204,000円

負担軽減措置の活用

社会保険の加入拡大の対象となる短時間労働者を支援するため、特例的・時限的に保険料負担を軽減する保険料調整の措置が実施されます。対象者には3年間限定で保険料の本人負担を最大50%抑える特例が設けられ、手取りの減少を緩和します。

・対象者:従業員数50人以下の企業などで働き、企業規模要件の見直しなどにより新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者であって、標準報酬月額が12.6万円以下であるもの

・期間:3年間
・支援策の内容:
       ①利用を希望する事業主は、事業主の負担割合を増やし、被保険者の負担を軽減できる
       ②事業主が追加負担した分については、制度から全額を支援

 

厚生労働省公式サイト 「社会保険の加入対象の拡大について」から引用

【コスト増対策】キャリアアップ助成金の活用

こうした企業の負担増に対応するため、「キャリアアップ助成金」の制度が拡充され、2025年(令和7)7月1日に「短時間労働者労働時間延長支援コース」が新設されました。

パートタイマーなどの労働時間延長・賃金増額などを行い、新たに社会保険を適用させた場合に、企業に対して助成金が支給される制度です。

厚生労働省 キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)のご案内(リーフレット)から引用


先ほどのシミュレーションで保険料負担増となっていた企業も、この助成金を活用すれば、初年度の負担を解消または軽減することが可能です。

この助成金を受給するには、労働時間の延長などを実施する前に「キャリアアップ計画書」を作成し、管轄の労働局に提出・認定を受ける必要があります。準備には時間がかかるため、早めに検討しましょう。


企業が取るべき対応

ここでは、中小企業経営者や人事労務担当者が取るべき具体的な対応策をご紹介します。

①従業員への周知と説明

まずは、従業員に今回の改正内容を正確に伝え、不安を解消することが大切です。

  • 手取り減だけでなく、メリットも伝える
    社会保険に加入すると、従業員の手取り額は一時的に減少します。しかし、将来の年金受給額が増える、病気やケガで働けなくなった場合に傷病手当金が受け取れるなど、長期的なメリットも多くあります。これらのメリットを丁寧に説明し、理解を求めましょう。
  • 働き方の希望をヒアリングする
    これを機に「もっと働きたい」と考える従業員もいれば、扶養の範囲内で働きたいと考える従業員もいるでしょう。今後の働き方について、個別に意向を確認する面談の機会を設けることが望ましいです。

②対象者の把握と勤務体制の見直し

次に、自社で新たに社会保険の加入対象となる従業員が何人いるのかを正確に把握します。

  • 対象者のリストアップ
    「週の所定労働時間が20時間以上」のパート・アルバイト従業員を全員リストアップし、影響を受ける人数を確認します。
  • 勤務体制の再検討
    従業員からのヒアリング結果を踏まえ、シフト体制や労働時間を見直します。「もっと働きたい」という需要に応えることは、人手不足の解消にも繋がります。

③軽減措置・助成金の準備と申請

コスト対策として助成金の活用は必須です。

  • キャリアアップ計画書の作成・提出
    前述の通り、助成金活用の大前提となります。自社の状況に合わせた計画書を作成し、早めに労働局へ提出しましょう。

④人事・給与システムの更新と実務手続き

実務的な準備も進めておく必要があります。

  • システムの更新
    給与計算システムが新しい社会保険の算定に対応できるよう、システム会社に確認し、必要に応じて設定・アップデートを行います。
  • 就業規則の改定
    パートタイマーの社会保険加入に関する規定を、法改正の内容に合わせて見直す必要があります。
  • 実務手続きの準備
    施行後、対象従業員の「被保険者資格取得届」を速やかに年金事務所へ提出できるよう、準備を進めましょう。

年収の壁は、所得税についても2025年(令和7)に税制改正されています。
税理士法人AOIみらいの公式ブログに関連記事がございますので、こちらも併せてご覧ください。


まとめ

2026年10月から始まる社会保険の適用拡大は、短期的には企業のコスト増に繋がる可能性があります。一方、軽減措置やキャリアアップ助成金を活用し、従業員の待遇改善と働きがい向上に繋げることで、人材の定着や採用力強化の機会でもあります。

税理士法人AOIみらいは、グループ会社に社会保険労務士法人を持ち、今回の法改正に伴う貴社の保険料負担の対応策、助成金申請のサポート、就業規則の改定などをワンストップでご支援いたします。

改正に伴う対応について疑問や不安があれば、税理士法人AOIみらい(東京都新宿区)にお気軽にご相談ください。

To top