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2025.01.06
令和7年度税制改正:103万円から123万円へ。年収の壁見直しと中小企業が取るべき対応
2024年(令和6年)12月20日に『令和7年度税制改正大綱』が発表されました。
今回の発表で最も注目を集めているのは、いわゆる「103万円の壁」の見直しです。これらが正式決定・実行されると、従業員の就労意欲向上や企業の人材確保に大きな影響を与える可能性があります。
今回の記事では、103万円の壁見直しの概要、特定扶養控除の引き上げ、具体的な影響、中小企業が取るべき対応について解説いたします。
※2025年1月11日更新
※本記事の内容は、2024年(令和6年)12月27日に閣議決定された税制改正大綱を元に更新しています。細かい基準・条件等はに財務省公式サイトに掲載されている「令和7年度 税制改正の大綱」「税制改正の大綱の概要」のPDFファイルにてご確認ください。
※税制改正大綱は方針を示すものであり、今後本記事とは異なる内容に変更される場合があります。
税理士法人AOIみらい 公式ブログ関連記事
・【速報】2025年度(令和7年度)税制改正大綱を解説
・【扶養控除】年収123万円、130万円の壁とは。中小企業が対応すべきことを解説
年収103万円の壁の見直し(基礎控除・給与所得控除の引き上げ)とは
2024年(令和6年)までは、給与所得者の課税最低限が103万円に設定されていました。これは基礎控除の48万円と給与所得控除の55万円を合わせた金額です。「103万円の壁」と呼ばれ、多くの非正規雇用者や主婦のパートタイマーが年収を抑える就業調整を行っているのが現状です。
2025年度(令和7年度)の税制改正では、この「103万円の壁」が123万円に引き上げられます。
改正後の内容
所得税控除額 引き上げの目的
・働き控えへの対応:いわゆる「103万円の壁」を引き上げることで、パート・アルバイト従業員の就業調整を防止し、労働供給を促進することを目指す
・所得減税による消費喚起:低所得層の手取りを増やすことで、消費を活性化し、経済成長につなげる
・インフレ対応:1995年からの最低賃金上昇率(1.73倍)に基づき、物価上昇に対応する
引き上げの概要
・給与所得控除の最低保障額を、55万円から65万円に引き上げ
・基礎控除を48万円から58万円に引き上げ(※合計所得金額が2,350万円以下の個人が対象)
・年末調整で対応するかたちで2025年(令和7年)から実施
これらの変更により、年収が123万円までの給与所得者は所得税が課税されなくなります。
特定扶養控除の要件引き上げ(特定親族特別控除の新設)
特定扶養控除は、19歳以上23歳未満の扶養親族(主に大学生)を持つ世帯の税負担を軽減するための制度です。2024年(令和6年)までは、所属税が課税されない扶養される子等の給与収入上限額が103万円に設定されていました。これにより大学生年代の若者がアルバイトの就業調整を行い、人手不足に影響していました。
令和7年度の税制改正により、この給与収入上限額が150万円に引き上げられます。年収150万円までは、改正前の扶養控除(特定扶養親族)と同額の63万円の控除を受けることができます。
改正後の内容
・対象者:19歳以上23歳未満の扶養親族を持つ納税者
・年収要件:103万円以下から150万円以下に引き上げ
・控除額:所得税63万円、住民税45万円(変更なし)
※150万円を超過すると段階的に控除額が縮小
・適用開始時期:令和7年分
年収別の減税額試算
大和総研の試算によると、単身世帯または配偶者控除・扶養親族控除適用対象外の給与所得者の場合、以下の試算となります。
年収200万円、300万円:年間5,000円
年収500万円、600万円:年間 10,000円
年収800万円、1000万円:年間 20,000円
参考:大和総研公式サイト「課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算(第3版)」
企業が取るべき対応
ここでは、中小企業経営者や人事労務担当者が取るべき具体的な対応策をご紹介します。
勤務体制・給与体系の見直し
特にパートタイマーや非正規雇用者の働き方に大きな変化が予想されますので、以下の対応を検討しましょう。
柔軟な勤務体制の導入
従業員の希望に応じて、より柔軟な勤務時間や給与設定を提供することを検討します。これにより、従業員の就業意欲向上と人材確保につながる可能性があります。
給与体系の再設計
103万円から123万円に引き上げられる控除額に合わせて、パートタイマーや非正規雇用者の給与体系を見直します。
従業員への周知と説明
税制改正の内容を従業員に正確に伝えられるよう、準備を整えましょう。
説明会の開催
従業員向けの説明会を開催し、改正のポイントや影響について説明する機会を設けましょう。また、個別の相談に適切に対応できるよう、人事部門のスタッフに対しても新制度の説明・研修を行いましょう。
質疑応答の準備
従業員から、以下のような相談・質問をされる可能性があります。適切な情報提供、アドバイスができるよう準備をしましょう。
・手取り収入への影響について
・新しい控除額に合わせて、勤務時間をどのように調整すべきか
・年収が123万円を超えた場合の所得税の計算方法
・各種控除の適用、影響について
・「106万円の壁」や「130万円の壁」との関係
・より長時間働くことによるキャリアアップの可能性
・雇用形態の変更可能性
人事・給与システムの更新
新しい控除額や特定親族特別控除に対応できるよう、人事・給与システムの更新や見直しを行いましょう。年末調整や源泉徴収処理が正確に実行されるようにテストを行ったり、運用マニュアルの整備も必要です。
まとめ
令和7年度の税制改正では、「103万円の壁」が123万円に引き上げられ、特定扶養控除の適用範囲が拡大されます。また、この改正内容は令和7年分以後の所得税及び令和8年度分以後の個人住民税について適用されます。
これにより、パートタイマーの就業調整の解消や、大学生を持つ世帯の税負担軽減が期待されます。中小企業経営者や人事労務担当者にとって、今回の改正は従業員のモチベーション向上や人材確保の機会となるでしょう。
また給与体系の見直しや人事システムの更新など、必要な準備を計画的に進めることも重要です。今後も税制改正の動向に注目し、企業と従業員の双方にとってメリットのある労務環境整備を実現していきましょう。
弊社には社会保険労務士も在籍しています。改正に伴う対応について疑問や不安があれば、税理士法人AOIみらい(東京都新宿区)にお気軽にご相談ください。