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2026.05.08
【令和8年税制改正】特定生産性向上設備等投資促進税制(大胆な投資促進税制)の概要・要件・注意点

2026年度(令和8年度)の税制改正において、新たな優遇税制「特定生産性向上設備等投資促進税制(通称:大胆な投資促進税制)」が創設されます。建物やソフトウェアも対象に含まれており、生産等設備の投資に適用できる優遇税制のため、大型の設備投資を検討している企業様は、有力な選択肢として一度検討すべき制度とも言えます。
本記事では、特に中小企業が活用を検討する際の具体的な適用要件やメリット、実務上の注意点を解説します。
目次
「特定生産性向上設備等投資促進税制」とは
- 制度創設の背景と目的
- 原則すべての業種が対象
中小企業が検討する際に押さえるべき3つの主な要件
- 要件① 投資額(中小企業は5億円以上)
- 要件② 年平均の投資利益率(ROI)が15%以上
- 要件③ 対象となる設備(建物・機械・ソフトウェア等)
税制メリットは「即時償却」「税額控除」の選択制
- 即時償却の場合
- 税額控除の場合(機械等7%、建物等4%)
- 自社にとってどちらが有利か
申請から適用までのスケジュール、留意すべき3つの注意点
- 注意点① 設備取得前の事前認定が必須
- 注意点② 2029年3月末までの適用期限と5年以内の事業供用
- 注意点③ 他の優遇税制との併用制限
まとめ
「特定生産性向上設備等投資促進税制」とは
制度創設の背景と目的
「特定生産性向上設備等投資促進税制」とは、企業の生産性向上に資する大規模な設備投資に対し、税負担の軽減措置を講じる新たな制度です。
2029年(令和11年)3月31日までに経済産業大臣の確認を受け、確認の日から5年以内に生産等設備を取得及び事業供用した場合に、税額控除7%(建物、建物附属設備、構築物は4%)又は即時償却を選択適用ができます。
背景には、グローバルな投資誘致競争の激化があります。欧米諸国等で導入されている投資減税措置に対抗し、高付加価値な生産拠点を国内に回帰・定着させることが主な狙いです。
国は本税制を通じて、企業の事業構造を転換させるような大型投資を促し、日本企業全体の収益力を向上させること、その成果を従業員の賃上げに還元し、経済の好循環を生み出すことを目的としています。
原則すべての業種が対象
青色申告書を提出する法人であれば、原則として業種を問わず活用が可能です。大企業が適用を受ける場合、「継続的な賃上げ」や「国内設備投資額の基準達成」といった要件が課され、これを満たさない場合は税制優遇が停止されるペナルティ措置が設けられています。
中小企業者等(資本金1億円以下の法人など)は、この適用停止措置は原則として免除されます。複雑な要件を気にすることなく純粋なメリットとして享受できるため、積極的な投資を計画する中小企業にとって活用しやすい制度設計です。
適用要件
| 適用対象者 | 青色申告書を提出する法人 ただし、中小企業者(適用除外事業者に該当するものを除く。)又は農業協同組合等以外の法人については、次の①または②に該当しない場合には適用不可(繰越税額控除制度を除く。) ①当期所得≦前期所得 ②次のいずれも満たす場合 ・継続雇用者給与等支給額≧継続雇用者比較給与等支給額×101% ・国内設備投資額>当期償却費総額の30% |
| 賃上げ要件 | 継続雇用者給与等支給額の増加割合が 1%以上 ※以下の場合は 2%以上 ・資本金の額等が 10 億円以上かつ常時使用する従業員数が 1000 人以上 ・常時使用する従業員数が 2000 人超 |
| 国内設備投資要件 | 国内設備投資額が当期償却費総額の 30%超 ※以下の場合は 40%超 ・資本金の額等が 10 億円以上かつ常時使用する従業員数が 1000 人以上 ・常時使用する従業員数が 2000 人超 |
| 対象資産 | ・その法人の事業の用に直接供される建物、建物附属設備、構築物、機械装置、工具、器具及び備品、ソフトウェアで一定規模以上のもの ・事務用器具備品、本店、寄宿舎等の建物、福利厚生施設等、貸付けの用に供されるものは対象外 |
| 適用時期 | ・申請期限:改正産業競争力強化法の施行日〜2029年(令和11年)3月31日までに主務大臣の確認を受けること ・事業供用期限:確認を受けた日から原則5年以内に設備を事業の用に供すること |
※中小企業等は、上記適用要件のうち、賃上げ要件・国内設備投資要件が免除
中小企業が検討する際に押さえるべき3つの主な要件
本制度の適用を受けるためには、事前に投資計画を策定し、主務大臣(経済産業大臣等)からの認定を受けることが必要です。認定をクリアする主な要件は以下の3点です。
要件① 投資額(中小企業は5億円以上)
本税制は、定期的な設備更新や小規模・短期的な設備投資ではなく、中長期的な成長に寄与し、事業構造を転換させるような大規模投資を対象としています。そのため、投資額が「5億円以上」と下限が設けられています。
中小企業にとって、投資額5億円以上は高いハードルとなります。したがって、すべての中小企業が容易に活用できるわけではありませんが、事業構造を転換させるような「大規模かつ付加価値の高い設備投資」を計画している企業にとっては、有力な選択肢となります。
適用にあたっては、単体の機械設備を導入するだけでなく、新工場の建屋、生産ラインの自動化機器、統合管理システムなどをパッケージ化した「総合的な投資計画」として策定することが重要です。
| 法人の区分 | 投資額の下限要件 |
| 中小企業者等 | 5億円以上 |
| 大企業 | 35億円以上 |
要件② 年平均の投資利益率(ROI)が15%以上
設備投資によって十分な収益を獲得できる計画であることが求められます。具体的には、投資計画における年平均の投資利益率(ROI)が15%以上となることが要件とされています。
この指標は、会計上の利益ではなく、実際のキャッシュフロー創出力(営業利益+減価償却費)で評価されます。また、計画の実現性を示すため、資金調達方法を明記した上で取締役会等での決議を経ることや、公認会計士・税理士など外部専門家による事前確認を受けることが必須とされています。
| ROIの計算式:(営業利益 + 減価償却費) ÷ 設備投資額 × 100 |
要件③ 対象となる設備(建物・機械・ソフトウェア等)
対象となる資産区分および最低取得価額の要件は以下の通りです。本制度は、これまで優遇税制の対象とされにくかった「建物」が明確に含まれています。
|
対象となる資産 |
最低取得価格の要件 |
具体例 |
税額控除率 |
| 建物 | 1,000万円以上 | 新工場、物流センター、大型商業施設など | 税額控除 4% or 即時償却 |
| 機械及び装置 | 160万円以上*1 | 産業用ロボット、半導体製造装置など | 税額控除 7% or 即時償却 |
| ソフトウェア | 70万円以上 | 生産管理システム、ERPなど | 税額控除 7% or 即時償却 |
| 建物附属設備・構築物 | 120万円以上*2 | 空調設備、受水槽、舗装路など | 税額控除 4% or 即時償却 |
*1 工具および器具・備品は年度取得合計額でも可(単価40万円以上)
*2 建物附属設備のみ年度取得合計額でも可(単価60万円以上)
税制メリットは「即時償却」「税額控除」の選択制
要件を満たして対象設備を導入した場合、法人の財務状況に合わせて「即時償却」または「税額控除」のいずれか有利な方を選択することができます。
即時償却の場合
即時償却は、取得した設備費用の全額を、取得して事業の用に供した事業年度の損金(経費)として一括で算入できます。投資初年度の税負担を軽減し、キャッシュフローを改善できることがメリットです。
たとえば、新工場と機械設備に総額10億円の投資を行った場合、通常は法定耐用年数に応じて分割して減価償却を行います。しかし即時償却を選択すれば、初年度に10億円全額を損金算入できます。実効税率を約30%と仮定した場合、初年度の税負担を約3億円圧縮する効果をもたらします。
税額控除の場合(機械等7%、建物等4%)
投資初年度に十分な課税所得が見込めず、損金算入のメリットを享受しきれない場合は、税額控除が有利になるケースが多いです。算出された法人税額から直接一定額を差し引くことができるため、最終的な税負担の総額を減らす効果があります。
控除率は資産区分によって異なりますので、要件③ 対象となる設備(建物・機械・ソフトウェア等)の表を参照ください。なお、控除できる金額は「当期の法人税額の20%」という上限が設けられています。
大規模投資の初年度は利益が圧縮される傾向にあるため、控除限度額を超過するケースも想定されます。これに対応するため、特定の要件(事業適応計画の認定など)を満たした場合には、控除しきれなかった金額を最長3年間にわたり繰り越して控除できる特例も措置されています。
自社にとってどちらが有利か
基本方針は以下のとおりです。
- 早期の資金回収・手元資金の最大化を優先するなら即時償却
- 中長期的な法人税支払総額の最小化を優先するなら税額控除
どちらを選択すべきかは、今後の利益計画や投資対象資産の内訳によって変動するため、投資計画の立案段階で細かいシミュレーションの実施が不可欠です。
申請から適用までのスケジュール、留意すべき3つの注意点
本税制は非常に有用ですが、手続きの順序や要件を誤ると適用を受けられなくなるリスクがあります。実務上、必ず留意すべき3つの注意点を解説します。
注意点① 設備取得前の事前認定が必須
本税制の適用を受けるためには、必ず設備の取得等(契約や着工を含む)を行う前に、投資計画を作成し、主務大臣の確認・認定を受ける必要があります。事後的な申請は一切認められないため、投資プロジェクトの初期段階から税理士等の専門家を交え、スケジュールを厳密に管理しましょう。
注意点② 2029年(令和11年)3月末までの適用期限と、5年以内の事業供用
以下の2つの期限要件を満たす必要があります。
- 申請期限:2029年(令和11年)3月31日までに主務大臣の確認を受けること
- 事業供用期限:確認を受けた日から原則5年以内に設備を事業の用に供すること
注意点③ 他の優遇税制との併用制限
投資計画の実施期間中は、次の税制の適用を受けることができません。
※中小企業経営強化税制は繰越税額控除制度を除く
- 地域未来投資促進税制
- 中小企業経営強化税制
- カーボンニュートラルに向けた投資促進税制
まとめ
「特定生産性向上設備等投資促進税制」は、投資下限額が5億円以上と設定されているものの、建物の即時償却が可能となるなど、中小企業にとってメリットの多い制度です。
- 投資額5億円以上、ROI15%以上の投資計画が必要
- 「建物」を含めた対象設備に対し「即時償却」または「税額控除」が選択可能
- 設備取得「前」の事前認定と、他の税制との有利不利判定が必須
税理士法人 AOIみらいでは、お客様の設備投資計画における最適な税制の選択から、計画策定、事前認定の申請サポートまで、トータルで支援いたします。
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