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2026.05.12

【令和8年税制改正】認定医療法人制度が3年延長。持分なしへ移行するメリットと注意点

 irohojin20260510

長年にわたって健全な医業経営を行い、地域社会に貢献してきた優良な医療法人ほど、法人内部に多額の利益が「内部留保」として蓄積されています。この内部留保の膨張は、そのまま出資持分の財産的価値(評価額)の高騰を招き、多額の相続税・贈与税につながるため、医業継続における課題とされています。

2026年度(令和8年度)の税制改正では、この問題を解決する「認定医療法人制度(納税猶予特例)」の適用期限が3年間延長されることになりました。これは、持分あり医療法人が、持分なし医療法人へ移行する際、多額の贈与税や相続税が100%猶予され、最終的に免除される制度です。

この記事では、特例制度の概要、持分なし医療法人へ移行するメリット、要件、注意点についてわかりやすく解説します。


【令和8年度税制改正】認定医療法人制度(納税猶予特例)が3年延長へ

医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度とは

2007年(平成19年)の医療法改正により、現在は新たに持分あり医療法人を設立することはできません。しかし、それ以前に設立された多くの持分あり医療法人が現在も存続しています。

日本の医療法人は、剰余金の配当が法律によって厳格に禁止されています。そのため、優良な法人ほど利益が蓄積し、退社や解散時に財産の払戻しを受ける権利を持つ「持分あり医療法人」の出資持分評価額が高騰しています(「持分なし医療法人」はこの権利を持たない)。

出資者(主に創業者である理事長など)に相続が発生した場合、高騰した出資持分に対して最高税率55%に達する多額の相続税が課されます。しかし、出資持分は換金性が低く、相続人には納税用の現金が手元にない状態になりがちです。

結果として、相続人が納税資金を確保するために、法人へ持分の払戻請求をするケースが多く、法人の運転資金や設備投資資金が流出し、経営破綻や地域医療の崩壊につながるという課題がありました。

「認定医療法人制度」とは、こうした持分あり医療法人が持分なし医療法人へ移行する際、多額の贈与税や相続税を100%猶予し、最終的に免除する制度です。

適用期限が2029年(令和11年)12月31日まで延長

本制度は恒久措置ではなく、2026年(令和8年)12月31日が移行計画認定の最終期限でしたが、制度利用の検討から要件充足までに、多大な時間を要するのが実情です。

そのため、令和8年度税制改正において、認定の最終期限を2029年(令和11年)12月31日まで3年間延長することになりました。

また、今回の改正では、認定要件の財務基準にも一部緩和が盛り込まれています。インバウンド需要の増加に伴う事務負担増や未収金リスクに鑑み、社会保険診療等の収入割合(80%要件)の計算において、特定外国人患者への自費請求上限が「1点10円換算の3倍まで」に緩和されました。

これにより、訪日外国人患者を多く受け入れている医療法人でも、要件をクリアしやすくなる場合があります。


どんな人が利用を検討すべき?対象となる3つのケース

この特例制度は、以下のような課題を抱える医療法人に特に推奨されます。

①:出資持分の評価額が設立時より大幅に高騰している

医療法人の出資持分は、原則として国税庁の「取引相場のない株式等の評価」に準じて算定されます。利益配当が禁止されているため、一般企業の評価で用いられる「配当還元方式」は適用できません。

そのため、長期間にわたり地域医療に貢献し、毎期安定した黒字を計上してきた法人は、純資産(内部留保)が雪だるま式に膨張します。さらに、長年保有している不動産の含み益も、純資産額を強力に押し上げる要因となります。

その結果、設立時の出資金額が数百万〜数千万円程度でも、現在では評価額が数億〜数十億円規模に膨れ上がってしまうのです。このような医療法人は、将来的な税務リスクを抱えているため、本特例の活用を検討すべきといえます。

②:親族などの後継者への「事業承継の時期」が近づいている

現理事長の高齢化に伴い、親族や信頼できる勤務医へ数年内に事業承継を行う法人は、本制度の恩恵を最も直接的に享受することができます。

持分あり医療法人において、現理事長が死亡した場合、出資持分は相続財産として評価されます。高騰した評価額に最大55%の累進課税が適用された場合、相続人は納税期限内(相続開始から10ヶ月以内)に資金を捻出する必要があるため、持分の払戻請求を実行する可能性が高くなります。

その結果、法人のキャッシュフローから数億円単位の資金が突如流出することになり、医療機器のリース代、スタッフの給与支払いを困難にし、損益は黒字であっても資金繰りが行き詰まる、いわゆる「黒字倒産」のリスクを急激に高めます。

事業承継時期が迫っている経営者にとって、本制度を活用して相続税負担を100%猶予させ、持分を消滅させて経営権のみを引き継ぐスキームは、法人存続の生命線となります。

③:後継者不在で、第三者承継(M&Aなど)や解散も視野に入れている

親族内に後継者がおらず、将来的にM&A等による第三者への承継を検討している場合も要注意です。持分あり医療法人の場合、買い手側は出資持分の買い取りに多額の資金が必要となり、それがM&Aの障壁になることがあります。

事前に持分なしへ移行しておくことで、買い手側の資金負担が軽減され、法人単体としての承継へのハードルを下げる目的で特例の利用を検討するケースがあります。


持分あり医療法人に潜む税負担リスク

「うちはまだ元気だから、事業承継は先の話」と対策を先延ばしにするのは非常に危険です。持分あり医療法人のまま放置すると、以下の2つの大きな税務リスクが顕在化します。

出資持分に対する「多額の相続税」問題

出資持分は「財産権」として扱われるため、出資者に万が一のことがあった場合、相続財産に計上されます。評価額が高騰していると多額の相続税が課せられますが、納税資金を捻出するために法人へ払戻請求が行われれば、法人の運転資金が枯渇し、医業の継続が困難になる恐れがあります。

持分放棄に伴う「みなし贈与税」問題

「生前に自分の持分を放棄してしまおう」と考える方もいらっしゃいます。しかし、一部の出資者が持分を放棄すると、他の出資者の持分割合(価値)が相対的に上昇するため、「他の出資者への贈与」とみなされ、そこに多額の贈与税(みなし贈与税)が課税されてしまいます。


「持分なし医療法人」へ移行するメリットと心理的障壁

最大のメリットは、相続税や贈与税の100%猶予・免除

認定医療法人制度を活用して、持分なし医療法人へ移行する最大のメリットは、出資持分の放棄等に伴って発生する相続税やみなし贈与税が100%猶予され、移行完了等の要件を満たせば最終的に免除されることです。

これにより、資金流出のリスクを完全に断ち切り、後継者へ健全な財務状態のまま病院・クリニックを引き継ぐことができます。

「財産権の無償放棄」が心理的障壁になる

税負担がゼロになるという絶大なメリットがある反面、「長年心血を注いで築き上げた法人の財産権(出資持分)を無償で完全に手放すこと」は、心理的な障壁になるケースが多いです。理事長様が一生懸命に地域医療を守り、蓄積してきた莫大な財産を手放すことになります。

「税金が安くなる」とはいえ、個人の財産を国や社会に明け渡すような感覚になり、そこに心理的な抵抗や葛藤、喪失感があって当然です。これは経営者としてごく自然なお気持ちと言えます。

「持分あり」のまま承継も選択肢になる

認定医療法人制度への移行はあくまで選択肢の一つであり、「絶対に移行しなければならない」わけではありません。ご自身の財産権を残したい、あるいは移行の要件を満たすのが難しいという場合は、特例を利用せず「持分あり医療法人」のまま承継する代替案も十分に考えられます。

例えば、現理事長へ多額の役員退職金を支給して法人の純資産(内部留保)を減らし、出資持分の評価額を意図的に引き下げた上で承継する方法や、暦年贈与や相続時精算課税制度を活用し、評価額が低い時期を狙って計画的に後継者へ持分を移転していく手法などがあります。

「財産権を手放して税金ゼロで承継する」か、「対策を講じながら財産権を残して承継する」か。どちらの道を選ぶかは理事長様の想い次第であり、どれが正解かは法人ごとに異なります。


認定要件(同族役員の割合制限など)のハードルと注意点

この特例を利用して持分なしへ移行する場合、厚生労働省が定める運営・財務要件をすべてクリアし、さらに移行完了後6年間に渡って維持し続けることが義務づけられます。要件は以下のとおりです。

  • 役員報酬の不当な高額支給の禁止(法人関係者に特別の利益を与えないこと)
  • 役員に占める親族(同族)の割合が「3分の1以下」であること

これらの要件は、医療法人の利益を親族(一族)で独占し、私物化するのを防ぐために設けられています。親族中心で経営を続けることは可能ですが、過大な役員報酬を支給したり、親族が経営するメディカルサービス法人(MS法人)や不動産管理会社に、不当に高額な業務委託費や賃料を支払ったりするような利益相反行為は、徹底的に監視され禁止されます。

また、法人の非営利性を判定する以下の計数要件(財務的な数値基準)も、高いハードルとなります。美容医療や自由診療を多く手がけるクリニック、あるいは過剰に現預金を溜め込んでいる法人にとっては、事業構造そのものの転換を迫られることになります。

  • 社会保険診療等の収入割合が80%超(自由診療が多すぎる法人は対象外)
  • 医業収入が費用の150%以内(過度な利益を出している法人は対象外)
  • 遊休財産の保有制限(事業に使っていない現預金などの過度な保有は対象外)

さらに、これらの要件は移行の瞬間だけでなく、移行完了後も6年間維持しなければなりません。法人はこの期間中、毎年厚生労働大臣に対して運営状況報告書を提出し、適正性を自ら証明し続ける義務を負うことになります。

仮に、6年の期間中に一度でも要件違反が発覚して認定が取り消された場合、猶予された贈与税・相続税に加えて、延滞税等の附帯税が発生します。そして、取り消しの日から2ヶ月以内に修正申告および莫大な現金の納税を行わなければなりません。


移行計画の策定は時間がかかる。今から準備すべき理由

「令和11年末まで延長されたなら、焦らなくても大丈夫」と思われるかもしれません。しかし、持分なし医療法人への移行は、同族役員3分の1以下などの要件をクリアする体制づくり、定款の変更、厚生労働省への移行計画の作成・提出、そして認定後の実際の持分放棄手続きなど、準備から移行完了までには年単位の時間がかかります。

また、M&Aなど第三者承継を検討している場合も注意が必要です。持分なしへの移行が必ずしもM&Aを容易にするわけではなく、買い手側の評価方法やのれんの扱いなど、他の要因も大きく影響します。移行自体に年単位の時間がかかるため、M&Aを急ぐ場合には間に合わないケースもあります。

適用期限はあくまで「移行計画の認定を受ける期限」です。余裕を持って事業承継を成功させるために、今から現状の持分評価額の算定や、課題の洗い出しに着手しましょう。


まとめ

出資持分の高騰による税負担リスクは、地域医療の存続を脅かす重大な経営課題です。令和8年度税制改正による特例の3年延長は、医療法人の経営者様にとって、税負担をゼロにしてスムーズな事業承継を実現する大きなチャンスと言えます。

税理士法人AOIみらいでは、現在の出資持分の評価シミュレーションから、最適な事業承継スキームの策定、持分なし医療法人への移行手続きまで、ワンストップでサポートいたします。

「うちの法人は特例を使うべきか」と少しでも迷われたら、お気軽にご相談ください。ともに、貴院の未来と地域医療を守る最適な道を考えましょう。

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